パート・アルバイト従業員にも、有給休暇を取得する権利があることをご存じですか?
この権利は、労働基準法に定められて、一定の条件を満たすことで発生します。
本記事では、パート・アルバイトの有給休暇取得の条件をはじめ、どのようにして賃金を算出すべきなのか、さらには時季変更権という制度や、これらの権利を侵害した場合の罰則についても詳しく解説しています。
人事や経営に関与する方々はもちろん、従業員自身も知っておくべき基本的な情報を、分かりやすく解説します。
- 1. 有給休暇の概念
- 1.1. 有給休暇制度の目的
- 1.2. 有給休暇取得推奨とそのメリット
- 2. パート・アルバイトの有給休暇の取得条件と義務
- 2.1. 1. 6ヶ月以上の勤務
- 2.2. 2. 出勤率が8割以上
- 2.3. パート・アルバイトの有給取得日数の義務
- 3. パート・アルバイトの有給休暇日数
- 3.1. 「一般労働者」とは?
- 3.2. 一般労働者の有給休暇取得日数のルール
- 3.3. パート・アルバイトの有給休暇取得日数
- 3.4. シフト制のパート従業員の有給休暇取得
- 3.5. パートから正社員への昇格時の有給休暇
- 4. パート・アルバイトの有給休暇分の賃金計算方法
- 4.1. 1. 直近3ヶ月の実績を基にした計算法
- 4.2. 2. 勤務時間と時給を基にした計算法
- 4.3. 3. 標準報酬日額を基にした計算法
- 5. 「時季変更権」:有給取得日を変更する権利
- 5.1. 1. 会社都合で「時季変更権」が行使される場合
- 5.2. 2. 特定の技能を持つ労働者の場合
- 5.3. 3. 時季変更説明の重要性
- 6. 違反時の罰則
- 6.1. 年間の有給休暇取得日数の不足
- 6.2. 有給休暇のタイミング
- 6.3. 有給休暇の時期指定に関する規則の不備
- 7. パート・アルバイトの有給休暇: 人事担当者が理解すべきポイント
有給休暇の概念
「有給休暇」は、労働者が仕事を休む日でも、企業からその日分の賃金が支払われる日を差します。
この制度の正式な名称は「年次有給休暇」と言います。
この有給休暇の制度は、「労働基準法」で定められおり、労働者が働く上での基本的な権利として確立されています。
そして、この権利は正社員だけでなく、パートやアルバイトも一定の条件を満たすことで発生します。
有給休暇制度の目的
有給休暇の制度は、労働者の心身の疲労を回復させ、リフレッシュすることを目的として設けられています。
有給休暇を取得する際、労働者は取得の理由を会社に伝える必要はありません。
この休暇期間中は通常勤務している日と同じ賃金が支払われます。
さらに、企業側は、有給休暇を取得する労働者に対して賃金の減額やその他の不利益な取り扱いをしてはならないと法律で定められています。
適切な手続きを踏まずに有給を与えない企業には、法的な罰則が科される場合があります。
有給休暇取得推奨とそのメリット
正社員だけでなく、パートやアルバイトの中にも、自らの権利を十分に理解していない、または申し出ることをためらっている方がいることが珍しくありません。
しかし、企業としては、条件を満たしている全ての労働者に対して、積極的に有給休暇の取得を促すことが重要です。
なぜなら、その結果として、従業員の満足度や生産性が向上する可能性が高まり、企業全体のパフォーマンスにプラスの効果が期待できるからです。
また、現代の情報化社会では、企業の働き方や待遇に関する情報がインターネット上で手軽に入手できます。
従業員の権利を適切に守り、労働基準法に従った取り組みをする企業は、求職者からの信頼を得やすく、採用面でのよい結果に繋がります。
パート・アルバイトの有給休暇の取得条件と義務
パートやアルバイトの従業員が有給休暇を取得できる条件は、主に2つのポイントがあります。
これらの条件を満たした従業員に対し、企業には有給休暇を取得させる法的な義務が生じます。
1. 6ヶ月以上の勤務
同一の職場において、試用期間も含めて6ヶ月以上継続して勤務している従業員は、有給休暇の取得権利が発生します。
ここでの「従業員」とは、正社員だけでなく、アルバイトやパートも含まれます。
たとえ当初、6ヶ月未満の短期契約だったとしても、契約更新を経て6ヶ月以上の勤務が確定した場合、有給休暇の取得が認められるのです。
2. 出勤率が8割以上
労働契約において定められた勤務日数のうち、8割以上実際に勤務している従業員に、有給休暇の取得権利が発生します。
例えば、週1日の勤務が契約されている場合でも、6ヶ月の間に休んだ回数が全勤務日の2割を下回っていれば、有給取得の資格を得ることができます。
しかし、定期的な出勤日時が契約に明記されていない場合、この基準からは例外となる場合があり、具体的な取得条件は双方の合意に基づく形
となります。
パート・アルバイトの有給取得日数の義務
2019年4月、日本の「働き方改革関連法」の改正により、有給休暇を10日以上取得する資格を持つ労働者に対して、企業は少なくとも5日分の有給休暇を1年以内に取得させることが法的に義務付けられました。
日本の職場文化では、上司や同僚への配慮やプレッシャーから、有給休暇の取得をためらう従業員が少なくありません。
この新たな義務化は、そうした文化の中で、従業員の休養を確保するためのステップとして導入されました。
なお、この5日を超える部分についての有給取得日数は、労働者自身の希望によって決まります。
企業側がその日数や日付を指定する必要はありません。
パート・アルバイトの有給休暇日数
パート従業員も、正社員と同様に有給休暇の権利を持っています。
ただし、取得できる有給休暇の日数は、勤務状況や労働時間によって異なります。
特に、労働基準法で「一般労働者」として定義される従業員の場合、基本的には1年あたり10日以上の有給休暇が付与されます。
「一般労働者」とは?
「一般労働者」というのは次の条件を満たす従業員のことを指します。
- 週5日以上勤務すること
- 週の労働時間が30時間以上であること
- 1年間の労働日数が217日以上あること
この「一般労働者」の定義は、正社員だけでなく、パート従業員にも適用されます。
一般労働者の有給休暇取得日数のルール
勤続年数に応じて、以下のような有給休暇が取得できます。
勤務期間 | 有給取得日数 |
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
3年6ヶ月 | 14日 |
4年6ヶ月 | 16日 |
5年6ヶ月 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
パート・アルバイトの有給休暇取得日数
週の勤務日数や年間の労働日数に応じて、有給休暇が以下のように付与されます。
継続勤務期間 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月~ |
週4日労働 年間169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
週3日労働 年間121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
週2日労働 年間73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
週1日労働 年間48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
シフト制のパート従業員の有給休暇取得
特定の職種、例えば訪問介護労働者の場合、シフト制で働くパート従業員の有給休暇取得の基準が異なる場合があります。
行政通達に基づき、半年間の勤務実績を基に、1年間の所定労働日数が計算されます。
仮に入社してから半年までの出勤日数が100日だった従業員の場合、1年間に換算すると200日(継続勤務期間)です。
そこで前項の早見表を確認します。この場合、5日の有給休暇を付与することがわかります。
パートから正社員への昇格時の有給休暇
パート従業員が正社員に昇格した際、これまでの勤続年数や累積した有給休暇日数は継続されます。
パート・アルバイトの有給休暇分の賃金計算方法
パート従業員が有給休暇を取得した場合、その賃金の計算方法は3パターンあります。
・「直近3ヶ月の実績」
・「勤務時間×時給」
・「標準報酬日額」
以下では、3つの計算方法を、実際の計算例を示して、その詳細を解説します。
1. 直近3ヶ月の実績を基にした計算法
この方法は、労働時間や労働日数に変動がある場合に採用されることが多いです。
具体的には、直近3ヶ月の賃金総額から、臨時手当やボーナス、労災などの特別な理由による支給を除いた後、実際の勤務日数で割ることで1日あたりの賃金を算出します。
例えば、過去3ヶ月の賃金総額が210,000円で、その間の勤務日数が30日だった場合、
1日の賃金は: 210,000円 ÷ 30日 = 7,000円
となります。
2. 勤務時間と時給を基にした計算法
この方法は、労働時間や労働日数が固定されている場合に最も適しています。
具体的には、時給と実際の勤務時間を掛け合わせることで、その日の賃金を算出します。
例えば、時給が1,000円で、4時間勤務した場合、
1日の賃金は: 1,000円 × 4時間 = 4,000円
となります。
3. 標準報酬日額を基にした計算法
これは、健康保険の賃金計算を基にした方法です。
標準報酬月額という仮の月給から日割りの賃金を算出するものです。
但し、この方法を使用するためには、パート従業員が勤務先の健康保険に加入しており、さらに労使間での協定が結ばれている必要があります。
標準報酬月額を定める際には、支払基礎日数という要素が関わってきます。
これによって、月給がどのように計算されるのかが決まります。
支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3カ月とも17日以上ある場合 | 3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1カ月でも17日以上ある場合 | 17日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3カ月とも15日以上17日未満の場合 | 3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1カ月または2カ月は15日以上17日未満の場合 (ただし、1か月でも17日以上ある場合は除く) | 15日以上17日未満の月の 報酬月額の平均額をもとに決定 |
3カ月とも15日未満の場合 | 従前の標準報酬月額で決定 |
「時季変更権」:有給取得日を変更する権利
「有給休暇」は、働く人々にとって大切な権利の一つです。
この権利を保障するため、企業は原則として労働者の希望日に有給休暇を許可する必要があります。
しかし、特定の事情が存在する場合には、企業側がこの日付を変更することが認められているのをご存知でしょうか。
これを「時季変更権」と言います。
1. 会社都合で「時季変更権」が行使される場合
「時季変更権」とは、企業側が有給休暇の取得日を変更することができる権利です。
ただし、これは自由に制限なく行使できるものではありません。
具体的には、労働者の有給取得が企業の正常な運営に影響を与える場合、例外的に行使されるものです。
例えば、お盆や年末などの繁忙期に多くのパートやアルバイトが同時に有給休暇を取得したいと希望する場合や、ある業務を担当する労働者が限られており、その人が休むことで業務に大きな支障をきたす可能性がある場合などが考えられます。
2. 特定の技能を持つ労働者の場合
特定の技能や資格を持つ労働者の場合、その労働者が休むことで、業務遂行が困難になるケースも存在します。
例として、大型トラックの運転を行う免許を持つ労働者などが挙げられます。
このような属人性の高い職種では、「時季変更権」の行使が必要となることも考えられます。
3. 時季変更説明の重要性
この「時季変更権」を行使する際には、企業側から労働者に対して、なぜこの権利を行使するのかを具体的かつ丁寧に説明することが非常に重要です。
漠然とした「業務が多忙」や「人手が不足」といった理由だけではなく、具体的な背景や状況をしっかりと伝えることで、労働者との信頼関係を維持し、円滑な運営を続けることができるでしょう。
違反時の罰則
パートやアルバイトの労働者は、正社員とは異なる雇用形態であるものの、労働基準法の範疇内で同等の権利と保護を享受しています。
特に、有給休暇という権利は重要で、適切に取得させることは企業の法的な義務です。
そして、この義務を怠った場合、企業は厳しい罰則を受けることが考えられます。
年間の有給休暇取得日数の不足
労働者に年間で5日以上の有給休暇を取得させない場合、違反とみなされます。
このような状況が生じた場合、労働基準法第120条に基づき、企業には最大30万円の罰金が課される可能性があります。
有給休暇のタイミング
労働者が希望する日に有給休暇を取得できない場合、それもまた違反となり得ます。
この場合、労働基準法第119条により、6ヶ月以下の懲役または最大30万円の罰金が科される可能性があります。
有給休暇の時期指定に関する規則の不備
企業が有給休暇の取得時期を指定する場合、必ず就業規則に明記されている必要があります。
この記載がないまま有給休暇の時期を指定して施行した場合、最大30万円の罰金が科せられる可能性があります。
以上のように、パートやアルバイトの労働者の有給休暇に関するルールは厳格であり、遵守することが非常に重要です。
企業は、このような罰則を避けるためだけでなく、労働者の権利を尊重する観点からも、有給休暇に関するルールを遵守し、適切な取り組みを進めるべきでしょう。
パート・アルバイトの有給休暇: 人事担当者が理解すべきポイント
有給休暇は、正社員だけでなくパートやアルバイトといった非正規雇用の労働者にも発生します。
事実、労働基準法には明確に、有給休暇が全ての労働者の権利として保障されています。
確かに、業務上の理由で有給の取得日を変更する「時季変更権」を行使することは可能ですが、その基本姿勢として、企業は労働者の要望を前向きに受け入れ、尊重することが求められます。
現代の情報社会では、SNSを通じて企業の評判が一瞬にして拡散する時代となっています。小さな事例として「有給休暇の取得」が挙げられますが、これを不当に拒否する行為は、会社のブランドや評価に大きな影響を及ぼす可能性があります。
特に、非正規の労働者に対しても適切に有給休暇を取得させることは、社会的責任を果たす企業としての姿勢を示す大切な要素となっています。